東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)170号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 前提事項
次の各事実は当事者間に争いがない。
(ⅰ) 機体の前後のバランスをとる必要のためには、無限軌道走行のコンバインの場合、走行時に無限軌道の前後の接地圧を平均化しなければならないことが技術的命題として自明な事柄であること。
(ⅱ) 脱穀部を機体の後方に搭載したコンバインは、後方に位置する脱穀部の重量によつて、無限軌道の後側の接地圧が大になること。
(ⅲ) 前輪で駆動する無限軌道においては、その接地側の無限軌道がゆるみ側となり、その結果として無限軌道が地面に確実に密着し、かつその前側の接地圧が大になること。
(ⅳ) コンバインによつて立毛穀稈を刈取るときに立毛穀稈の刈取り高さを一定にするためには、機体全体が前後に動揺しないようにすることが必要なこと。
2 第一引用例について
成立に争いのない甲第二号証の一ないし四、第三号証によれば、本願考案と同じく無限軌道帯を用いる自脱コンバイン(自動刈取脱機)に属する第一引用例のものにおいて、穀稈搬送部を前部に、脱穀部を後部に配置する構成が示されており、前項(ⅱ)の事実によれば、この構成によつて、後方に位置する脱穀部の重量により、無限軌道の後側の接地圧が大となることが明らかである。
原告は、脱穀部であるその脱穀選別装置は無限軌道帯の後端よりも後方へオーバーハングするよう突出しているから、前部接地側に対する後部接地側の接地圧の増大分が著しく、前後部接地圧間の平衡ないし平均化に資する効果は到底考えられないし、その点に関する技術的思想は全くみられないとする。なるほど、第一引用例の第1図に示された実施例の脱穀選別装置の後部は無限軌道帯2の後方に位置してえがかれているけれども、当該考案としては、機体の前方寄りに搭載した穀稈搬送部に対して後方寄りに脱穀部を搭載することを例示したものに過ぎず、その位置関係を厳密に規定したものではないから、無限軌道帯の後方に突出したものに限定するものでもなく、その脱穀部自体の構造等の実施態様如何によつて後部接地側の接地圧も種々の場合が考えられ、前項(ⅰ)(ⅱ)の事実にかんがみれば、走行に差支えるような実施も考えられないので、原告主張のようなものとは俄かになし難いし、他方、本願考案においても、脱穀部(6)の位置については、後方寄りとするほか、何ら限定がないばかりでなく、直接、接地圧分布に関与するクローラーの接地後端部の関係では、何ら触れるところがない。
したがつて、第一引用例には、原告が本願考案の特徴とする(ろ)の配置形態が示されているということができる。
3 第二引用例について
前掲甲第二号証の一ないし四、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、本願考案と同じく無限軌道帯を用いる農耕用車両に属する自動耕耘機利用の悪路走行車であつて、最前輪のみを駆動輪としたものが示されており、前掲(3)の事実にかんがみれば、原告が本願考案の特徴とするいの駆動形態が示されているということができる。
4 第一引用例に対する第二引用例の適用について
前記認定によれば、第二引用例は、第一引用例と同じく農耕用無限軌道走行車として同一技術分野に属するものであり、前掲(ⅰ)ないし(ⅳ)の事実にかんがみて、第一引用例に示された配置形態に第二引用例に示された駆動形態を適用して結合し、本願考案のように構成することは、当業者であればきわめて容易になすことができたものといわねばならず、原告が主張する(イ)、(ロ)の効果もその適用によつて予期できる範囲のものといわねばならない。
そうすると、本願考案の進歩性を否定した審決に、原告主張のような判断の誤りはない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
車枠台(1)に全クローラーからなる無限軌道(4)を取付け、該無限軌道(4)は、最前輪(7)のみを駆動輪とし、前記車枠台(1)の前方寄りに穀稈搬送部(5)を、後方寄りに脱穀部(6)を搭載すると共に前記車枠台(1)の前方に穀稈ガイド部(3)を取付け、該穀稈ガイド部(3)の後方で最前輪(7)の前方に配置して刈取り部(2)を車枠台(1)に取付けてなる自脱コンバイン。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙一 本願考案
<省略>